半導体新工場ラッシュ:日本へのTSMC工場進出とその背景

半導体新工場ラッシュ:日本へのTSMC工場進出とその背景

半導体の受託生産で世界最大手の台湾TSMCが、熊本県に日本初の工場を建設しました。この工場建設には日本政府から最大1兆2000億円の補助金が支給される予定です。ここでは、なぜTSMCが日本を選んだのか、その理由と産業への影響について詳しく見ていきます。

半導体新工場ラッシュ:日本へのTSMC工場進出とその背景

1.TSMCの日本進出と第一工場の完成

TSMCは台湾で1987年に設立され、半導体の受託生産で世界的に知られる企業です。2024年2月、同社は熊本県に日本初の工場を建設し、開所式を行いました。さらに第2工場の建設も計画されており、日本政府はこれに1兆2000億円以上の補助金を支給する方針です。TSMCは最新の3ナノメートル先端半導体の生産を行い、業界の先駆けとなっています。

半導体新工場ラッシュ:日本へのTSMC工場進出とその背景イメージ1: 半導体サイズ別用途

半導体新工場ラッシュ:日本へのTSMC工場進出とその背景イメージ2: 半導体サイズ別シェア

2.日本選択の背景

TSMCが日本を選択した背景には、いくつかの要因があります。まず、日本政府の巨額の補助金は大きな魅力であり、これによってTSMCは生産拠点を拡大することができます。また、日本の技術力や安定した経済環境も影響しています。さらに、米中の対立や台湾有事といったリスクを考慮し、多くの企業が製造拠点を分散化する動きがあります。これらの要因が重なり、TSMCが日本への進出を決定したと考えられます。

半導体新工場ラッシュ:日本へのTSMC工場進出とその背景

3.補助金の波及効果

日本政府は経済安全保障上の重要性から、半導体の生産拠点整備を支援するため、今年度の補正予算では約1兆9000億円、昨年度の補正予算でも約1兆3000億円を計上し、これまでに合計約4兆円の予算を確保しています。

日本政府が半導体産業に対して積極的な支援を行うことで、製造業界全体に波及効果が期待されます。補助金を受け取った企業は新たな設備投資や研究開発に力を入れることができ、これによって産業の競争力が向上するでしょう。また、省エネ技術や環境対策の推進も見込まれ、持続可能な産業の形成に寄与すると期待されます。

誘致企業 誘致場所 設備投資額 補助金額 稼働時期
TSMC第1工場 熊本県菊陽町 1兆2,900億円 4,760億円 2024年
TSMC第2工場 熊本県菊陽町 1兆7,100億円 7,320億円 2027年
Rapidus 北海道千歳市 5兆円 3,300億円 2027年
キオクシア 岩手県北上市 7,200億円※ 2,400億円※ 2024年
マイクロンテクノロジー 広島県東広島市 5,000億円 1,920億円 2024年
PSMC 宮城県大衡村 8,000億円 未定 2027年

国内外メーカーに対する日本政府の補助金額
※三重県四日市市の工場との合計

4.人材不足への対策

半導体産業への投資が増加する一方で、国内では産業を支える人材の不足が深刻な問題となっています。経済産業省によると、半導体関連産業の従業員数は1999年には23万人余りでしたが、2019年には16万8000人余りとなり、20年間で3割近く減少しました。

しかしながら、コロナ禍の半導体不足や、経済安全保障上の観点から半導体の重要性が高まったこと、さらにはAI技術に不可欠なデータセンターや電気自動車向けなどでの半導体需要の拡大が見込まれることから、近年において業界を取り巻く環境が大きく変化し、人材の確保がますます重要となっています。

半導体新工場ラッシュ:日本へのTSMC工場進出とその背景

4.まとめ

TSMCの日本工場建設は、半導体製造業界における新たな展開を象徴しています。日本政府の支援を受けつつ、製造拠点を拡大することで業界の競争力が強化される一方で、業界団体である「電子情報技術産業協会」(JEITA)によれば、今後の10年間で主要な8社だけで少なくとも4万人の人材が追加で必要になると推計されています。

さらに、この推計にはTSMCが含まれていません。半導体製造装置や素材などの関連産業も考慮に入れると、さらに多くの人材が必要になると見込まれています。この問題に対処するためには、外国人労働者の受け入れや技術者のキャリア形成支援など、さまざまな施策が必要です。

 

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