夫婦別姓は長らく議論されてきたテーマですが、近年ますます注目を集めています。特に職場での苗字変更がめんどくさいと感じる人も多く、夫婦別姓の実現は働く人々にとって重要な課題となっています。本記事では、夫婦別姓の現状や、苗字変更の手続き、職場で旧姓を使用する方法などについて詳しく解説します。
夫婦別姓の現状と法的背景
夫婦別姓の現状
夫婦別姓とは、結婚後も夫婦がそれぞれの姓を保持する制度です。日本における夫婦別姓の歴史は、明治維新後の氏名制度改革に始まります。明治8年には氏名が義務化され、明治9年に夫婦別姓が定められました。しかし、これは一時的なものであり、明治31年に施行された明治民法によって夫婦同姓が法的に定められました。そして現在まで日本では、夫婦別姓は法律上認められておらず、結婚する際には夫婦どちらかの姓に統一することが義務付けられています。日本の民法第750条には「夫婦は、婚姻の際に夫または妻の氏を称する」と規定されています。
法的背景
・民法の規定: 民法第750条により、夫婦は同じ姓を名乗る必要があります。
・最高裁判所の判断: 2015年、日本の最高裁は夫婦同姓を義務付ける現行法は憲法に違反しないと判断しました。
・国際的な状況: 世界的には夫婦別姓を認める国が多く、国連も日本に対し導入を勧告しています。
・立法動向: 法改正を求める声はありますが、国会での成立には至っていません。
・選択的夫婦別姓案: 夫婦が同姓か別姓かを選べる制度の導入を求める動きがありますが、実現していません。
現在の法律では、結婚後に夫または妻の姓を選ばなければならず、多くのカップルがこの制約に不満を持っている現状があります。2024年3月、夫婦別姓を求める複数の訴訟が東京地方裁判所および札幌で提起されました。夫婦別姓に関する議論は進んでおり、今後の法改正に向けた動きが期待されています。
なぜ夫婦別姓が望まれるのか?
それぞれに事情があり、夫婦別姓を望む理由も様々ですが大きく議題として挙げられるのは下記の2つの理由です。
個人のアイデンティティ保持
結婚によって姓が変わることで、長年築いてきた個人のアイデンティティが失われると感じる人が多いです。特に職場では、旧姓で知られている同僚や取引先との関係が再構築される必要があり、ストレスとなります。
苗字変更手続きの手間
結婚による苗字変更は、様々な手続きが発生するため、非常に手間がかかります。例えば、印鑑登録の変更、運転免許証の変更、国民健康保険や年金の手続き、会社においてもメールアドレスの変更、名刺の再発行、各種システムの更新などが必要です。この手間を避けたいという理由も夫婦別姓が望まれる要因の一つです。
苗字変更の手続きについて
地域や個々の状況によって異なる場合がありますので、具体的な手順は担当の役所や機関に問い合わせて確認する必要があります。
1.戸籍の変更手続き
戸籍法に基づき、苗字を変更する場合はまず戸籍の変更手続きが必要です。例えば、結婚や離婚に伴う苗字の変更の場合、市区町村役場に届け出を提出し、戸籍謄本や結婚届、離婚届などの書類を提出します。
2 .公的な身分証明書の変更
戸籍の変更が完了したら、運転免許証や健康保険証、パスポート、マイナンバーカードなどの公的な身分証明書の苗字も変更する必要があります。例えば、運転免許証の場合は、運転免許センターに戸籍謄本や届出書類を提出して、苗字変更の手続きを行います。
3 .金融機関や保険会社の登録変更
銀行口座やクレジットカード、保険契約、携帯の契約など、金融機関や保険会社に登録されている苗字も変更する必要があります。これには、戸籍謄本や届出書類を提出して、登録変更手続きを行います。
4 .電子メールやオンラインアカウントの変更
個人が所有する電子メールアカウントやオンラインサービスのアカウントに登録されている苗字も変更する必要があります。これには、各サービスのアカウント設定画面から苗字を変更する手続きを行います。
5 .職場や学校などへの届出
若干の例外を除いて、多くの場合、職場や学校などにも苗字の変更を届け出る必要があります。これには、人事部門や学校事務局に戸籍謄本や届出書類を提出して、変更手続きを行います。
~職場での苗字変更手続き例~
【1】人事や総務部門への報告
【2】必要書類の提出
【3】各種書類の変更(給与、保険、年金など)
【4】ITシステムでの変更(メールアドレス、社員証など)
【5】社内通知
【6】顧客や取引先への通知
職場で旧姓を使うことは可能か?
旧姓使用のケース:法的には苗字を変更する必要がありますが、職場や取引先では旧姓を引き続き使用することが認められているケースもあります。例えば、営業職や公務員などでは旧姓使用が一般的になりつつあります。
手続きのポイント:旧姓使用を希望する場合の手続き方法としては、まず会社の人事部門に相談し、旧姓使用の許可を得ることが必要です。また、社内規定を確認し、旧姓使用が認められているかどうかを確認します。
メリットとデメリット:旧姓使用のメリットとしては、アイデンティティの維持や業務の継続性が挙げられます。一方で、デメリットとしては、公的書類との整合性の問題や、取引先との混乱が生じる可能性があります。
夫婦別姓を巡る論点
夫婦別姓の導入に関しては、賛否両論の意見が存在します。
賛成の意見例
個人の尊重:結婚しても自分のアイデンティティを保持できるため、個人の尊厳を尊重することができる。
男女平等:現在の法律では、約95%の夫婦が男性の姓を選ぶことが多く、女性が名前を変えることが多いです。夫婦別姓を認めることで、男女平等の観点からも公平性が向上します。
家族の多様性の尊重:夫婦別姓は家族の多様な形態を認めるものであり、現代の多様化する社会に適しています。例えば、再婚や国際結婚の場合、夫婦別姓を選ぶことで家族内の調和が取りやすくなります。
反対の意見例
家族の一体感:同じ姓を持つことで、家族の一体感や連帯感が強まると考える人もいます。
伝統の維持:日本の伝統的な価値観や慣習を重視する人々は、夫婦同姓が家族の基本的な形態であると考えます 。
子供の姓の問題:夫婦別姓を認めた場合、子どもの姓をどうするかという新たな問題が生じます。子どもがどちらの姓を名乗るかで親同士が対立する可能性もあります。
これらの賛否両論の背景には、個人の権利や自由を尊重する価値観と、家族の伝統や社会の安定を重視する価値観の対立があります。どちらの意見にも一理あるため、夫婦別姓に関する議論は続いています。
夫婦別姓や苗字変更の働く上でのポイント
報告・連絡は忘れない:夫婦別姓が法的に認められた場合や、結婚後に旧姓の使用をする・しないどちらを選択するとしても、混乱が生まれないよう同僚や取引先への報告が重要です。メールや社内ツールなどを活用して、円滑なコミュニケーションを図りましょう。
業務への影響を予測:苗字変更を行う場合は、業務に与える影響についても考慮する必要があります。特に、営業職やカスタマーサポート職など、外部とのやり取りが多い職種では、事前の準備が重要です。
メンタルヘルスのケア:夫婦別姓・苗字変更によるストレスや不安が生じる場合もあります。夫婦別姓には賛否両論もある為、選択をした自分自身のメンタルヘルスのケアをしっかりと行い、必要に応じてカウンセリングを受けることも検討します。
夫婦別姓や苗字変更に関する手続きは複雑ですが、事前準備とコミュニケーションを徹底することでスムーズに進めることができます。旧姓のまま業務を行う選択肢も含め、自分にとって最適な方法を見つけましょう。職場での手続きや働く上でのポイントを押さえ、結婚後も快適に仕事を続けられるようにしましょう。