「労使協定方式」と「派遣先均等・均衡方式」の違いとは?それぞれのメリット・デメリットも解説

「労使協定方式」と「派遣先均等・均衡方式」の違いとは?それぞれのメリット・デメリットも解説

改正労働者派遣法によって導入された「派遣先均等・均衡方式」は、「同一労働同一賃金」の実現を目指すための派遣社員の処遇を定める方法の一つです。この制度において、派遣元企業は「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかを選択する必要があります。同様に、派遣先企業も、派遣会社に対する処遇の決定に関する情報提供が求められます。

この記事では、「労使協定方式」と「派遣先均等・均衡方式」がどのような仕組みなのかを解説します。派遣元企業や派遣先企業が選択する際のメリット・デメリットについても取り上げ、労使協定方式の対応についても詳細に説明します。

「労使協定方式」と「派遣先均等・均衡方式」の違いとは?それぞれのメリット・デメリットも解説

1.労使協定方式とは

労使協定方式は、改正労働者派遣法における派遣社員の待遇を規定する手段の一つです。この方式では、派遣元企業と労働者代表(労働組合または過半数を占める組織)が協定を結び、派遣社員の処遇について合意します。ただし、教育訓練や福利厚生施設の利用など、仕事に必要な権利は、派遣先の正社員と同等でなければならない点です。特徴としては、派遣元企業と派遣社員が直接条件を協議するため、派遣社員の賃金が派遣先の正社員の賃金基準に影響を受けない点です。

2.派遣先均等・均衡方式とは

派遣先均等・均衡方式は、派遣社員の待遇を派遣先企業で同じ仕事をしている正規従業員と同等にする制度です。この方式を適用する際、派遣会社は派遣先企業に対して、比較対象となる正規従業員の待遇情報を提供します。派遣先企業はこれを基にして、派遣社員の待遇を決定することとなります。

この方式の重要なポイントは、派遣社員を受け入れる企業が、同じ業務をこなす正規従業員との待遇差を防ぐことにあります。派遣先企業は提供された情報を検証し、不合理な待遇差がないように注意を払います。結果として、同一の業務を担当する者同士であれば、雇用形態にかかわらず公平な待遇が実現されます。

3.労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の違い

厚生労働省の資料によると、派遣先均等・均衡方式を採用している企業が5.2%、労使協定方式88.6%(、併用6.2%)と約9割近い企業が労使協定方式を採用しています。情報提供による派遣先企業の負担や派遣社員の安定性を考慮し、労使協定方式を採用する派遣会社が多いようです。
出典:令和4年度 労使協定書の賃金等の記載状況について

表:労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の違い

労使協定方式 派遣先均等・均衡方式
比較対象 同一の業務に従事する一般労働者 同一の業務に従事する派遣先の労働者
待遇 一定の要件を満たす労使協定による待遇 派遣先の比較対象労働者と均等・均衡のとれた待遇
派遣先の提供情報 教育訓練
福利厚生施設
<比較対象労働者に関する項目>
業務内容/基本給/賞与/責任の程度/職務の内容および配置変更範囲/雇用形態/比較対象労働者の選定理由

<施設利用に関する項目>
食堂/休憩室/更衣室

<手当他>
役職手当/病気・休職/時価外・深夜/教育訓練/通勤・出張/住宅/食事/家族/社宅・単身/その他

4.労使協定方式のメリット・デメリット

労使協定方式は、待遇に関する情報提供が派遣先均等・均衡方式よりも簡略化され、これにより派遣先企業の負担が軽減されるという大きなメリットがあります。情報提供が簡素なため、手続きが迅速に進み、双方の合意形成が容易になります。

一方で、デメリットとして考えられるのは、同じ業務をこなす派遣先企業の正規従業員との間で賃金格差が発生する可能性があることです。労使協定方式では平均賃金に基づいて派遣社員の賃金が決定されるため、必ずしも正規従業員と同等の賃金となるわけではありません。このため、派遣社員と正社員の間で不平等感が広がり、モチベーション低下や不平不満が生じる可能性があります。

5.派遣先均等・均衡方式のメリット・デメリット

派遣先均等・均衡方式が派遣会社で採用されると、派遣先企業の待遇が優れていと、優秀な派遣社員が集まりやすく定着率が向上します。この方式は、派遣社員が同等の仕事をしている正規従業員と同じ待遇を享受できることから、労働者にとって魅力的な選択肢となります。

しかしながら、この方式にはいくつかのデメリットも存在します。例えば、派遣会社へ提供する待遇に関する情報量が多くなるため、派遣先企業は手間や時間がかかり、管理負担が大きくなります。また、派遣社員が派遣先企業の待遇に不満を抱く場合、仕事を辞退する可能性が高まります。このような課題を解決するには、円滑な情報提供とコミュニケーションが不可欠です。

6.労使協定方式による一般賃金の算出方法

労使協定方式については、2020年4月に施行された労働者派遣法第30条の4で「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること」と定められています。以下に、この一般賃金の算出方法について解説します。

一般賃金は、下記の3つの要素から構成されています。
①基本給および賞与、手当など
②通勤手当
③退職金

6-1.基本給および賞与、手当の決め方

これは「基準値×能力・経験調整指数×地域指数」の計算式で算出できます。

6-1-1.基準値

基準値は厚生労働省が発表する「賃金構造基本統計調査」または「職業安定業務統計」の求人賃金から計算されます。この値は職業の選択によって影響を受けるため、正確な選択が必要です。

6-1-2.能力・経験調整指数

この指数は能力や経験を数値化したもので、「賃金構造基本統計調査」の特別集計から勤続年数別の所定内給与に賞与を加えて算出されます。ただし、労使協定方式では実際の勤続年数を示すものではなく、派遣社員が従事した業務の難易度などを労使が協議し、決定します。

6-1-3.地域指数

地域指数は都道府県別に設定され、派遣先の事務所がある地域の物価の違いを補正します。使用する指数は、労使協定において決定されるべきものであり、都道府県別の指数やハローワークの指数から選択されます。尚、地域指数を乗じた額が、最低賃金を下回る場合には、最低賃金以上の金額が確保されます。

6-2.通勤手当の決め方

「実費支給」と「定額支給」の、2つの方法があります。

6-2-1.実費支給

実費支給は、実際に発生した通勤費用を派遣社員に支給する方法です。この場合、支給額に上限がなければ、自宅から職場までの交通費を出勤日数に応じて実費で受け取ることができます。ただし、上限がある場合は、通勤手当の最低金額である労働1時間あたり71円(2023年の場合)と同額以上にしなければなりません。

6-2-2.定額支給

定額支給は、一定の金額を定めて派遣社員に支給する方法です。支給される金額は一般労働者の通勤手当に相当し、最低金額は毎年変動します。派遣先企業はこの最低金額以上を確保する必要があります。

6-3.退職金の決め方

退職金の算出には、3つの方法があります。

6-3-1.前払い退職金制度

前払い退職金制度は、基本給・賞与などの6%以上にあたる退職金相当額を、毎月賃金(時給)に上乗せして支払う方法です。この6%という値は局長通達で決められています。派遣社員は就労期間に関わらず、退職時に退職金を受け取ることができますが、社会保険料の負担が増加するデメリットもあります。

6-3-2.中小企業退職金共済制度(中退共)や確定拠出年金

中小企業退職金共済制度や確定拠出年金は、毎月掛け金を支払って退職金を積み立てる制度です。退職金は退職時に受け取れ、国による制度なので非課税適用などのメリットがあります。ただし、中小の派遣会社を対象とした制度なので、大手派遣会社を利用する場合は適用されません。

6-3-3.派遣元企業独自の退職金制度

派遣元企業が定める退職金の支給条件に基づいて退職金が支給されます。退職金は基本給×支給月給×支給率で算出され、勤続年数が増えるごとに金額が上昇します。ただし、有期雇用派遣の場合は労働者派遣法の「3年ルール」があるため、この制度を導入する場合は、退職金をもらえない可能性があります。活用できるのは無期雇用派遣などの一部に限られます。

「労使協定方式」と「派遣先均等・均衡方式」の違いとは?それぞれのメリット・デメリットも解説

7.まとめ

労使協定方式では、派遣社員の待遇が平均賃金によって決まり、派遣先企業の負担が比較的少ない一方、同じ業務を行う派遣社員と派遣先企業の従業員との賃金格差が生じる可能性があります。一方で、派遣先均等・均衡方式は派遣先企業の待遇が重視され、優れた待遇を提供することで優秀な派遣社員が集まりやすくなり、定着率が向上します。

派遣先均等・均衡方式を選択する際は、情報提供の手続きが必要ですが、派遣社員と従業員との待遇格差を防ぐため、的確な情報提供が求められます。どちらの方式もメリットとデメリットがあり、適切な選択と情報提供が重要です。

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