1.労働者派遣法とは?
労働者派遣法の正式名称は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」です。この法律は1986年に施行され、労働力の需給調整の適正化や、派遣労働者の保護を目的としています。一般的には「派遣法」とも呼ばれます。
ただし、派遣会社に登録しても、必ずしも仕事が紹介されるわけではありません。このため、派遣労働者の収入が不安定になることがあります。労働者派遣法は、こうした派遣労働者の保護を図るために存在しています。
2.派遣法改正の歴史
労働者派遣法は、1986年の施行以来、何度も改正されてきました。初期の改正は、産業界の要請に基づき規制緩和が進められましたが、近年では主に派遣労働者の保護を重視した改正が行われています。
3.労働者派遣法で規制されている事項
労働者派遣法には、派遣労働に関する様々な規制が含まれています。その中でも主な規制は以下の通りです。
3-1.日雇い派遣の原則禁止
雇用期間が30日以下の日雇い派遣は原則禁止されています。ただし、通訳やソフトウェア開発などの専門技術を求められる特定の業務や、高齢者などの不安定雇用につながらない労働者に対する例外は認められています。
3-2.派遣労働者への特定行為禁止
派遣労働者を受け入れる際に、労働者を特定するための次の行為は禁じられています。
*就業前に派遣労働者を面接すること
*就業前に派遣労働者の履歴書を送付させること
*「30代以下限定」など、派遣労働者に条件を課すこと
3-3.派遣契約解除の制限
派遣契約と労働契約は別個のものであるため、派遣契約が途中で解除された場合でも、ただちに派遣労働者を解雇することはできません。派遣会社は派遣先と連携し、派遣労働者の就業を確保するか、他の派遣先を見つける必要があります。
3-4.同一労働同一賃金
派遣先の一般労働者と同じ仕事をする場合は、同じ賃金を支払うことが求められています。派遣労働者と企業間での待遇差をなくすための規定です。
3-5.特定業務の派遣禁止
以下の業務に関しては、原則として派遣労働者の使用が禁止されています。
*港湾運送業務
*建設業務
*警備業務
*医療関連業務
*士業
3-6.1年以内に離職した者の派遣労働者としての受け入れ禁
労働者と企業が直接雇用契約を締結していた場合、離職後1年間は、同じ社員を派遣労働者として受け入れることが禁止されています。派遣会社が事情を正確に把握せず、1年以内に離職した元社員を派遣した場合は、派遣先の企業は直ちに派遣会社に通知しなければなりません。
3-7.グループ企業内の派遣受け入れ規制
グループ企業内に派遣会社がある場合は、グループ内への派遣割合を8割以下に調整する必要があります。ただし、60歳以上の定年退職者については、この規制の対象外となります。
4.2015年9月における派遣法改正の概要
2015年9月の派遣法改正のポイントを3点にまとめて説明します。
4-1.労働者派遣事業の許可制への一本化
特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業の区別は廃止され、すべての労働者派遣事業は、新たな許可基準に基づく許可制となりました。
4-2.労働者派遣の期間制限の見直し(3年ルール)
従来、労働者派遣には期間制限が設けられていませんでしたが、2015年9月の改正により、すべての業務において3年間の期間制限が導入されました。ただし、派遣労働者が派遣会社と無期雇用派遣契約を結んでいる場合は、この3年ルールの適用から除外されます。
4-3.均衡待遇の推進
派遣会社は、派遣先企業において同種の業務に従事する労働者との均衡を考慮しながら、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生の実施をおこなうように配慮しなければいけません。
5.2020年4月における派遣法改正の概要
2020年4月の派遣法改正のポイントを3点にまとめて説明します。
5-1.派遣社員の賃金決定方法の厳格化
正社員との待遇差を解消するために、派遣労働者の待遇を確保する規定が整備されました。派遣労働者の雇用に際しては、【派遣先均等・均衡方式】または【労使協定方式】のいずれかの採用が義務化されました。
5-2.派遣先から派遣会社への情報提供の義務付け
派遣先が派遣社員の賃金水準を決める際には、派遣先から派遣会社へ【派遣社員と同程度の業務に従事する正社員(比較対象労働者)の賃金等に関する情報】提供が義務付けられました。これにより、派遣社員に均等・均衡の取れた賃金を提供できるよう支援されます。
5-3.派遣会社から派遣社員への説明義務付け
派遣元は、派遣社員に対して雇入れ時や派遣時、そして派遣社員からの要求があった場合に、待遇内容や比較対象労働者との差異などについて説明する義務が課されました。
雇入れ時には、以下の説明を行います。
*昇給の有無
*退職手当の有無
*賞与の有無
*労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期)
*派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
*派遣先均等・均衡方式によりどのような措置を講ずるか
*労使協定方式によりどのような措置を講ずるか
*職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案してどのように賃金を決するか(協定対象派遣労働者は除く)
派遣時には、以下の説明を行います。
*賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金を除く)の決定等に関する事項
*休暇に関する事項
*昇給の有無
*退職手当の有無
*賞与の有無
*労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期)
さらに、派遣社員から求められた際には、比較対象労働者との待遇の相違について内容や理由を説明する必要があります。
6.2021年1月の改正内容
2021年1月の派遣法改正のポイントを4点にまとめて説明します。
6-1.雇入れ時における教育訓練についての説明義務
派遣元は派遣社員に対して、キャリア形成を目指した段階的かつ体系的な教育訓練を提供する義務が課されました。以下に、定められている教育訓練の要件をまとめました。
6-2.派遣契約書の電磁的記録の容認
派遣契約書の交付は従来は書面でのみでしたが、改正によりPDFやワードなどの電磁的記録による交付が認められるようになりました。
6-3.日雇い派遣の契約解除に対する休業手当の支払い
日雇い派遣労働者の派遣契約が中途解除された場合、派遣元は新たな就業機会を確保できないとしても、休業手当の支払いなど雇用の維持のための責任を負うことが定められました。
6-4.派遣先における派遣労働者からの苦情処理
派遣先において派遣労働者からの労働関係法令に関する苦情があった場合、派遣元だけではなく派遣先も誠実かつ主体的に対応することが義務付けられました。
7.2021年4月の改正内容
2021年4月の派遣法改正のポイントを2点にまとめて説明します。
7-1.雇用安定措置の強化
派遣元は、雇用安定措置に関する派遣労働者からの希望をヒアリングし、その内容を派遣元管理台帳に記載する義務が課されました。雇用安定措置は、継続就業を希望する派遣社員に対して実施される措置であり、通常3年間の就業見込みがある場合に適用されます。具体的には、以下の4つのいずれかを実施することが求められます。
7-2.マージン率等の開示
派遣元は、派遣先へ提供する情報について、インターネットなどの方法を通じて常時開示することが義務付けられました。この改正により、労働者は信頼できる派遣元を選びやすくなると期待されています。
開示対象となる情報は、以下になります。
*派遣先から派遣元へ支払われる紹介料
*派遣料などのマージン率
*派遣労働者の数
*派遣先数
*派遣労働者の平均賃金額
8.労働者派遣法に違反した場合
労働者派遣法では、違反内容によって罰則が定められています。たとえば、以下のいずれかの行為には、1年以下の懲役あるいは100万円以下の罰金が課せられます。
*港湾運送業務などの派遣適用除外業務において、労働者派遣事業をおこなう
*厚生労働大臣の許可を受けずに一般労働者派遣事業をおこなう
次のいずれかの行為については30万円以下の罰金が課せられます。
*派遣労働者に就業条件などを明示せず、派遣先に派遣する
*派遣労働者の氏名などを派遣先に通知しない
*派遣期間の制限を受ける最初の日以降、継続して派遣労働者を仕事に就かせる
また、上記の罰則とは別に、派遣会社が労働者派遣法に違反した場合については派遣許可の取り消しなど、派遣先については勧告や公表などの行政処分を受けることもあります。
9.まとめ
2020年に続き、2021年にも労働者派遣法が改正されています。両年とも、派遣労働者を保護することを主な目的とした改正が行われました。
少子高齢化による労働人口の減少が日本において深刻化している中、企業には、派遣労働者を含めたすべての人材が働きやすい環境を整えることが求められています。労働者派遣法の改正点を十分に理解し、必要な対策を講じていくことが重要です。